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山口家庭裁判所 昭和54年(少)1093号 決定

少年 T・S(昭三七・一二・二〇生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

司法警察員作成の

(1)  昭和五四年一〇月三日付少年事件送致書記載の審判に付すべき事由(毒物及び劇物取締法違反)

(2)  昭和五五年四月二九日付少年事件送致書記載の犯罪事実(暴力行為等処罰に関する法律違反)

のとおりであるから、これらを引用する。

(適条)

(1)  接着剤吸入の事実につき、毒物及び劇物取締法第三条の三、第二四条の四、同法施行令第三二条の二

(2)  集団的暴行等の事実につき暴力行為等処罰に関する法律第一条

(処遇事由)

(1)  本件非行事実は、(イ)少年が徳山市内で雇われた会社から兵庫県高砂市に出向して稼働中の昭和五四年九月三日同市内公園内で同僚と共にトルエンを含む接着剤を吸入した事案と、(ロ)昭和五五年四月六日深夜岩国市内の暴走族グループへの仕返しのため、単車を運転して他の暴走族集団と行動を共にして、岩国市内の交差点で信号待ちしていた自動車の乗員三名に対し集団で暴行を加え、自動車のボンネットに登り窓ガラスを割るなどして器物を毀棄した事案である。

(2)  昭和五四年少第一〇九三号事件の上記(イ)の事案はT・U(昭和三五年七月一四日生、当時一九歳)の毒物及び劇物取締法違反事件として司法警察員(兵庫県高砂警察署警視○○○○)から神戸家庭裁判所姫路支部に送致され、その後当裁判所に移送されたものであるが、調査(兵庫県警察本部刑事部鑑識課長の指紋鑑定依頼に対する回答を含む)の結果、右違反を犯したのはT・Uではなく、その弟である少年(T・S)であることが判明した。

ところで、少年事件において他人の氏名等を詐称した場合に捜査機関(検察官又は司法警察員)が誰を送致したかは、送致書の少年の表示のみで形式的に決すべきではなく、その表示を前提としてその表示によつて実質的に捜査機関が誰を送致したかを送致後の少年の挙動も含め合理的解釈によつて決すべきである。これを本件についてみれば、高砂警察署の司法巡査が昭和五四年九月三日午後一〇時三〇分頃高砂市内を警ら中少年らがふらふらしながら歩いてくるのを発見したので不審に思い少年らに対して職務質問の結果本件犯行が発覚し、そのまま高砂署に任意同行の上、引き続きT・UことT・Sを取調の上供述録取書を作成し本件捜査を終えてT・Uとして送致し、その後調査・審判においても少年(T・S)が氏名詐称者として行動していることが明らかである。右事実からすれば本件送致書に表示されたT・Uは、司法警察員としては兄のT・Uとして行動した弟のT・Sであり、もし氏名詐称の事実が判明しておれば、T・Sに訂正する意思を有したものと推定できるから、本件調査審判の対象たるべき少年は、T・UことT・Sと解される。そこで当裁判所は昭和五四年少第一〇九三号事件につき、送致少年の氏名、生年月日T・U(昭和三五年七月一四日生)をT・S(昭和三七年一二月二〇日生)と訂正の上昭和五五年少第四七一号事件に併合して審判を行うこととした。

(3)  少年は、三人兄弟の末子であるが中学二年頃から目立つて行動に落着きがなくなり、中学三年の夏休み明けから友人との万引や自動車盗などの非行があらわれ、高校進学後も自転車盗などの問題行動が続き学校生活に適応できなくなつて昭和五三年七月一四日私立○○高校を一年で退学したが職業生活も不安定で本件(1)(イ)の毒劇法違反を犯し、昭和五四年一二月一七日には二輪免許を取得し、間もなく単車(スズキGT三八〇CC)を購入してその運転に熱中し、昭和五五年二月頃から暴走族グループ「○○」に加入して仲間と行動を共にするうちに本件(1)(ロ)の非行に及んだものであり、現場では少年自身直接実行行為に及んではいないが、その背後にあるぐ犯性は強い。

(4)  その他、少年に対する調査官作成の少年調査票及び鑑別技官作成の鑑別結果通知書に正当に指摘された問題点を総合すれば、少年の健全な育成を期するためには、この際少年を中等少年院(短期処遇課程相当)に収容して不良交友関係を絶ち専門家の指導の下で健全な生活態度を身につけさせ短期間集中的に矯正教育を行うことが最も適切な措置であると認められる。

よつて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 三村健治)

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